環境のことを考えて事業をするうえでとても参考になるゆりかごからゆりかごへ(Cradle to Cradle)という考え方があるので紹介します。
内容としてはサーキュラーエコノミーと近い考え方で、大量に作って捨てる「ゆりかごから墓場へ」というやり方ではなく、ゴミという考え方をなくして、作ったものを品質を下げずに原料として再度利用する「ゆりかごからゆりかごへ」という考えができるように、製品をデザインすべきという考え方です。
ゆりかごからゆりかごへ(Cradle to Cradle)のコアとなる考え
ゆりかごからゆりかごへ(Cradle to Cradle 以下C2C)はこの本の著者のウィリアム マクダナーとマイケル ブラウンガートが考えた考え方で、大きなポイントは以下の3つです。
- 自然界の循環(バイオスフィア)と産業界の循環(テクノスフィア)を混ぜない
- ダウンサイクルではなく、アップサイクルを目指す
- さほど悪くない(Less bad)ではなく、より良い(More good)を目指す
自然界の循環(バイオスフィア)と産業界の循環(テクノスフィア)を分けるとは
元々自然界にはごみという概念がなく、例えば花が果実になって、それが落ちても土壌になっていきます。やがて産業が現れ、安全に土に返せないものが大量に生まれてきています。例えば靴など、昔の靴は革を植物から抽出した安全な薬剤でなめしていたので捨てても生分解されていたものが、クロムを使うようになって有害物質が広がっていくようになったように、自然界のものだけであれば問題なく循環していたものが、産業界のものが入ってきたことで問題なく循環されなくなってしまう。
逆に、産業界の循環という意味では貴重な素材は再利用できたものが、自然界のものが入ってしまっているが故に溶かした時に純度が落ちて品質が落ちてしまうということが起きてしまいます。本来産業界で閉じていればちゃんと産業界の養分として再利用できたものができなくなってしまうということが起きます。本文を引用すると、
廃棄物の量が増え続けることや、その廃棄場所が不足することが、「ゆりかごから墓場」デザインの最も深刻な問題なのではない。それ以上に問題なのは、産業と自然双方にとって大切な「食物」となる栄養分が、汚染され、無駄にされ、失われていることである。
ダウンサイクルではなく、アップサイクルを目指す
ダウンサイクルとアップサイクルという言葉が出てくるのですが、同じリサイクルをするのでも、リサイクルする過程で自然界と産業界のものが混ざってしまったり、別の素材が混ざってしまったりすると再利用後のものの品質が落ち、同じレベルで再利用はできなくなります。そのことをダウンサイクルと言っています。逆に完全に分離できていれば、同じ品質で何度でも再利用でき、さらにより付加価値の高い製品の材料として利用できる可能性もあるので、そのことをアップサイクルと言っています。
例えば、紙のリサイクルをするためには、場合によっては有毒なインクも含まれているものを漂白して、それを溶かなどの処理で、紙の繊維も短くなり、品質も落ちる。といったことがあります。
さほど悪くない(Less bad)ではなく、より良い(More good)を目指す
環境に負荷が少しでも少ないものを作るというのはどこの会社も言っていることで、それが悪いというわけではないのですが、それを目指してしまうとそこで思考停止になってしまうという考え方の問題です。結局本来的に環境に良い製品を作るためには、デザイン自体を見直すべきで、悪い物質は使わない、アップサイクルをできるようなデザインを考えるのが根本的な解決である中で、少しでも負荷の少ないものをつくるというのを目指すとなると、負荷があるのは当たり前になってしまいます。
悪くないをめざすとなると例えば有害物質を20%減らすというというような目標になってしまうので、それだと目指すもの自体がおかしいよねということです。
3R(Reduce,Reuse,Recycle)では足りない
Less badでは足りないという話につながる話なのですが、この本の中では一般的によくエコとして言われている3R(Reduce,Reuse,Recycle)を最初から目指すのが間違っていると言っています。
まずReduce(削減)に関しては、有害廃棄物は少量であっても時間とともに自然界に壊滅的な結果をもたらすから、削減で満足すべきではない。
またReuse(再利用)に関しては、そもそも環境に言い訳ではない製品を再利用するのは逆に悪いことがあるということです。
以前温暖化対策で効果の大きい解決法ベスト10でも書いたのですが、温暖化を解決するのに冷媒の管理というのがとても有効な対応方法なのですが、昔の今よりさらに品質の悪い冷房を例えば新興国に輸出して再利用されているとしたら、排出量は増える一方になるということがありえます。
Recycle(リサイクル)に関しては先ほどの再生紙の例のように、そもそもリサイクルしたところで環境にやさしいとは限らない。リサイクさせることを前提にしたデザインに最初からされていることがまず前提になります。
以上のことから、3Rを最初に目指すというのが間違っているというのがC2Cでの考え方です。
実際の例
事例として載っていた一つとして、スチールケース社の子会社デザインテックス社と開発した、生分解性の椅子用の布地を開発した事例があります。バイオスフィアかテクノスフィアのどちらかに閉じた製品を作るべきということから、人が食べても大丈夫なくらい安全な繊維をデザインしようということでデザインしています。仕上げや染料やその他処理につかう化学薬品が最も問題で、繊維業界で使われている8000種類もの化学薬品を使ってはいけないものとして除外し、使ってもいい薬品38種類のみを選びそれだけを使って製品をデザインしています。結果として、工場で有毒物質から身を守るための手袋やマスクが不要になったということです。
他にもC2Cを意識している会社としてナイキが紹介されています。有害物質を使わずに革をなめす、分解しやすいデザインにする、製品の回収をして、そのゴムを利用してテニスコートとして再生するなど、様々な取り組みをしています。
ボトルネックは商品の回収か
このC2Cを実現する際には、製品の回収ができて、素材に含まれる物質が明確であり、分離・分解が容易にできることが必要になってきます。
中でも大きなのハードルになってくるのが、回収のところだと思っています。その一つの解決方法が製品のサービス化(Product as a service)とは何かで書いたような製品の所有権はメーカー側においたままにするというようなものです。通常の小売製品であれば、ナイキや、H&Mが取り組んでいる洋服のリサイクルのようなリサイクルをしている所に持ち込むような形になります。ただその行為がなかなかハードルが高いので、いち消費者としてはコンビニや郵便局がそのようなリサイクルに力を入れているメーカーと一緒になって回収サービスなどしてくれるなどがあればよいのですが。
参考資料
ウィリアム マクダナー (著), マイケル ブラウンガート (著), 吉村 英子 (監修), サステイナブルなものづくり―ゆりかごからゆりかごへ|人間と歴史社 (2009/06)
Textiles, Wallcovers, & Surfaces from Designtex – Steelcase