イタリアの都市では、大木がそびえる公園を目にすることが多々あります。それは、かつての貴族のお屋敷が現在は一般に公開されていたり、ローマ時代の遺跡と一体化した公園があったりと形態はさまざま。
自然を愛するイタリア人の中でも、特に文化的な分野ではイタリアのほかの地方をよりも意識が高いという認識を持つトスカーナでは、昨年のクリスマスとても素敵なプロジェクトが発信され、大盛況となりました。そのプロジェクトについて、ご紹介したいと思います。
イタリア人は自然が大好き
そもそも、イタリア人の自然への思いは筋金入りで、もとをただせば古代ローマ時代にまでさかのぼるといわれています。古代ローマの人々は、自然の中で過ごす「閑暇」を非常に大事にしていました。都市には都市の機能だけを配置し、閑暇を過ごすセコンドハウスを郊外の大自然の中に持つことが多かったのです。この志向は数世紀を経ても変わらず、現代のイタリア人たちも夏のバカンスともなれば海や山などの自然に向かうことが大半です。
フィレンツェから発信された素敵なクリスマスプレゼント
2019年11月、フィレンツェではあるプロヘクトが発信しました。
カトリックの国イタリアでは、クリスマスはとても大事なイベントであり、家族や友人にプレゼントを贈るのが慣習になっています。しかし近年は、商業主義に走りすぎるこのプレゼントに疑問の目を向ける人も増えていました。プレゼントの慣習はなくして、家族とおいしいものを食べながら親しく語り合うだけでいい、と思う人も少なくなかったのです。
そこに登場したのは、「愛する人に樹木を贈ろう」というフィレンツェのプロジェクトでした。フィレンツェ市が、町の緑地化とクリスマスのプレゼントを関連売り出したこのプロジェクトは、またたくまに完売したのです。
その内容は、どんなものであったのでしょうか。
長期的なスタンスで市民を巻き込む緑化運動
フィレンツェ市は、1本の樹木につき150ユーロ(2020年8月のレートでおよそ19000円)を払うと、市が選んだいくつかの庭園や公園内に木を植えてると発表したのです。そして、植樹の際には、樹木を贈った人が愛する人に送ったメッセージをカードにして添付することになりました。個人情報もありますから、このメッセージを読むにはプレゼントを贈られた人が、木に添付されているプレートのQRコードを携帯電話で読み取るという形になっています。
プロジェクト第1弾として選ばれた木々は、400本。
カエデ、桜、ヨーロッパナラ、プラタナス、樫の木、柳などの中から、贈りたい樹木を選択することが可能です。そして、観光都市フィレンツェらしく、このプロジェクトではフィレンツェ市民にとどまらず、フィレンツェを愛する外国人や、フィレンツェを訪れたことはなくてもその文化にあこがれる人まで樹木の購入ができることになっていたのです。
フィレンツェ市では、5年以内に1万5千本の植樹を計画しています。
また、樹木購入のために支払われた150ユーロは、今後の木々の管理や整備のために消費されることも明らかになっています。このプロジェクトにおけるフィレンツェの最大の目的は、地球の温暖化に対して市民の興味を喚起し、市民レベルで参加してもらうことにあると、公式のホームページには記されています。
人知れぬ思いを秘めた樹木の存在
愛する人に高価なプレゼントを贈るのではなく、人知れぬメッセージを秘めた樹木を贈るというのは、ロマンティシズムをもくすぐるなかなか愉しいプロジェクトではないでしょうか。
その樹木に関連する人間が死んだ後も、樹木はフィレンツェの中で生き続けるのです。また、フィレンツェに住んでいない人にとっても、あこがれの町に自分が贈った木が存在するというのも喜ばしいことなのでしょう。なぜなら花の都と呼ばれるフィレンツェは、欧州のエリートたちがこぞって憧れるルネサンスの都であるからです。
人びとの町への思いと地球温暖化への対策を合致させたプロジェクトの植樹は、covid-19の感染拡大によって遅れているようです。しかし、今後も継続することは公式ホームページでもアナウンスされています。
参照元
https://ambiente.comune.fi.it/dona-un-albero