マイケル・ポーター教授によって提唱されたCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)は社会課題を解決することによって、社会価値と経済価値の両方を創造する次世代の経営モデルです。CSVがどんなもので、CSRと何が違うのか、企業での事例について紹介します。
CSVとは何か
上記の通りCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)は社会課題を解決することによって、社会価値と経済価値の両方を創造する次世代の経営モデルです。
この本でCSVについてと、その事例や実践するためのステップが書いてあります。
元々の背景としては、リーマンショックを機に、持続可能性を無視した競争や株価至上主義を引き起こしやすい資本主義に拒否反応が起き、一方で社会問題が幾何級数的に広がっていき、そこに対しての問題意識が高まってきていました。それこそポーター教授が教鞭をとっているハーバードのビジネススクールの卒業生がNPOやNGOなどに多く就職するようになってきていました。
でも結局課題を解決するためには大きな経済価値が必要になってきて、NPOやNGOの活動では焼け石に水であるという危機感をポーター教授が持っていたようです。そこで、
社会価値と経済価値はどちらかしか取れないトレードオフではなく、社会課題を解くことによって、新たな価値が創造され、そこが経済リターンを生む。そのような社会と経済の正の循環を作ることが資本主義本来の役割である
という発想の元で作られています。
CSVを実現するための方法
経済価値と社会価値を両立するのはもちろん望ましいのですが、実際にどうやるのかという問題があります。ポーター教授はどの会社でもCSVになることができて、以下の3つの領域どれかで必ず社会課題を解決できると言っています。
- 次世代の製品・サービスの創造
- バリューチェーン全体の生産性の改善
- 地域生態系の構築
次世代の製品・サービスの創造は
社会問題の解決に役立つ次世代の製品・サービスの創造をすること。気候変動、水や食料の不足、経済格差の拡大、高齢化などの社会問題を事業機会と捉えて、自社の強みや資産を活かしてそれを解決すること
バリューチェーン全体の生産性の改善は
世界中に広がるバリューチェーンの川上から川下までの全体の生産性を上げて、最適化、効率化することで社会価値を生み出す
地域生態系の構築は
事業を行う地域で、人材やサプライヤーを育成したり、インフラを整備したり、自然資源や市場の透明性を強化することを通じて、地域に貢献するとともに強固な競争基盤を築くというもの。
ポーター教授は必ずしも社会にとって良いとは言えないものをたくさん作ってきた会社でも、上記どれかでは必ずCSVは実践でき、例えばタバコの会社でも天然資源の活用や、原料供給農家の収益力アップに貢献するといった形でCSVを実践できると言っています。
CSVとCSRは何が違うのか
よく企業が社会的な行動をするというと、CSRが頭に浮かぶと思います。CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)とCSVは何が違うのでしょうか。簡単にいうと、CSVは社会的に良いことでお金を稼ぐ、CSRは社会的良いことを何かするということです。どちらかというと本業とは違う所でCSR部のような組織を作って、木を植えるとか、ゴミ拾いをするとかそういう印象があるかと思います。
ただ、先程紹介した本にも書いてあるのですが、
CSVかCSRかという議論にエネルギーを費やす必要はなくなる。違いを挙げて対立させるのではなく、CSRが経営の中心にさらに近づいたものとしてCSVを捉えるほうがよほど建設的
と捉えるのがよいのかなと思います。
ネスレの事例
CSVに関して調べるとネスレの事例がよく出て来ます。
ネスレは1866年に創業しています。当時、ヨーロッパでは栄養不足による乳幼児の死亡率が高く社会問題となっていました。薬剤師であったアンリ・ネスレは、この問題を何とか解決できないかと栄養価の高い乳幼児用食品を開発し、販売しました。
ネスレ|社会課題を事業の機会と捉え、CSVに取り組む【前編】| 環境・CSR・サステナビリティ戦略に役立つ情報サイト おしえて!アミタさん
とあるように、元々が社会課題を解決しようとして立ち上げられてるのともマッチして、CSV経営をしています。その全体像がとてもよく整理されていて、下図のようになっています。
この枠組の中で、それぞれKPIを設定して公開するという徹底した取り組みをされているようです。
CSVの本来あるべき形は
CSVもそうなのですが、環境問題を含めた社会問題を扱う裏の目的の一つに採用時のアピールになるというものがあります。ミレニアル世代にアピールするためには、給与などだけではなく、仕事のやりがいや、会社自体の社会的意義が必要になってきていると。そういう観点でみたときに、やっている事業は必ずしも社会的によくないけど、バリューチェーンの観点では社会問題を減らせていますといってもどれだけのインパクトがあるのか怪しい部分はあります。
社会問題への取り組み方にもレベル感があり、先程のネスレの図を利用させてもらうと、下図のようになっている印象があります。CSVの中でも、事業を営む目的自体が社会問題の解決なのか、事業の運営の仕方で社会問題を解決することがあるのかでは大きな隔たりがあります。サステイナブルの中でも、少しでも悪いことを減らすのと、環境に良いことをするのでは大きな隔たりがあります。そして、最近の流れとしては、環境問題への対応が必須となっていく中で環境に悪いことを減らしてくのはコンプライアンスのレベルになり、それでは全くアピールにもならないレベルに変わっていっているのを感じます。
本気でCSV経営をするのであれば、今までの事業をどう社会問題と結びつけるか(SDGsにも同じ印象を受けますが)ではなく、今の社会問題から自社がどう解決できるのかという形で再度考え直す必要があるのではないでしょうか
参考文献
名和 高司 CSV経営戦略―本業での高収益と、社会の課題を同時に解決する |
東洋経済新報社 (2015/10/16)
ネスレ|社会課題を事業の機会と捉え、CSVに取り組む【前編】| 環境・CSR・サステナビリティ戦略に役立つ情報サイト おしえて!アミタさん