ユニクロのファーストリテイリングが出しているサステイナビリティーレポートを見ると環境サステイナビリティを意識した経営を行うために、自社だけではなく、サプライチェーン全体で対応していく必要があることがわかります。そのためにユニクロは「サステイナブル・アパレル連合」(SAC)の「HIGGインデックス」というツールを使って改善していこうとしているようなので、その内容を紹介します。
サステイナビリティにおけるサプライヤーの重要性
ユニクロのサステイナビリティレポートには二酸化炭素排出量の数値が出ているのですが、会社だけで見た時の発生量は137,872tCO2eとなっているのに対して、主要素材工場における排出量は2,917,069tCO2eなので、この数字を見るだけで、その会社だけの排出量だけを減らしただけでは意味がなく、素材の作成から販売まで全てのバリューチェーンで減らすことを考えていかないと意味がないことが分かります。kering社の環境損益計算書EP&Lとはどんなものかで書いたKering社の話しと全く同様なことが言えます。
そのためには、サプライヤーの環境負荷を測り、削減させていくための管理方法がどうしても必要で、それを解決ツールとして導入したのが、「サステイナブル・アパレル連合」(SAC)の「HIGGインデックス」というツールになります。
サステイナブル・アパレル連合(SAC)とは
アパレル業界、フットウェア業界、ホームテキスタイル業界を、環境に害を及ぼすことなく、事業を取り巻く人々や地域社会に有益な影響を与える存在にすることを目的とした、様々なステークホルダーが参画する独立団体です。サプライチェーン全体での環境パフォーマンスの測定や、評価方法の標準化を目指しています。
SACに参加している団体は
SACに参加している団体はどういう所があるかというと、アディダス、バーバリー、コロンビア、ディズニー、デュポン、H&M、INDITEX、Kering、リーバイス、LVMH、Nike、ニューバランス、パタゴニア、アンダーアーマー、ウォルマートなどがあります。
Members – Sustainable Apparel Coalition
日本企業はファーストリテイリング、アシックス、帝人、東レが入っていますが、まだ少ない印象です。
Higgインデックスとは
サプライチェーン全体での環境パフォーマンスの測定や、評価方法の標準化を実現するためのツールとして用意しているものがHiggインデックスです。大きく
という3種からなります。
Higg Product Tools
Higg Product Toolsは製品を生産するにあたっての環境のインパクトを測定することができます。
- Higg MSI(Materials Sustainability Index)
- Higg DDM(Design&Development Module)
- Higg PM(Product Module)
の3つに分かれています。
Higg MSI(Materials Sustainability Index)
環境への影響が最も大きいのは素材なので、特定の素材を選んだ際の環境インパクトを把握できるのがHigg MSIです。ナイキが作成したMaterials Sustainability Indexが元になっていて、コットンやポリエステル、シルクなどの79の素材についての環境への影響の情報を持ったデータベースを保持し、それを元に環境に関するインパクトを把握することができます。
このようなグラフの形式で素材ごとの環境への影響を把握できるようになっています。
Higg DDM(Design&Development Module)
環境への影響はほぼデザイン段階で確定するので、デザイナーが環境への影響を認識してデザインすることが重要になります。それをサポートするツールがHigg DDMです。MSIのように素材だけではなく、最もよい生産方法や、ライフサイクル全体でのインパクトも知ることができて、それを元にデザインをすることができます。
Higg Facility Tools
サプライチェーン全体での環境・社会インパクトを測定・評価をすることができるツールで、1年に1度は評価してSACの認定をもらうような仕組みがあります。施設のタイプごとに他との比較ができる
それを元にしてサプライヤーとの会話ができます。大きく
- HIGG Facility Environmental Module
- Higg Facility Social and Labor Module
の二つで出来ています。
HIGG Facility Environmental Module
それぞれの設備施設の環境パフォーマンスをしり、改善させることができ、サプライチェーンの全ての階層で使うことができるのがHIGG Facility Environmental Moduleで、ファーストリテイリングがまず使おうとしているのはこれです。ファーストリテイリングのサステイナビリティレポートから引用すると、
私たちは、ユニクロ商品の生産量の70%を担う主力素材工場を選定し、今後、HIGGインデックスの「環境モジュール」というツールを利用して、温室効果ガスなどの排出、排水、エネルギー使用、化学物質の使用など7つの異なる環境テーマについて工場の取組み状況を継続的に評価していきます。これにより、どの工場が支援を必要としているか、最も良い改善方法は何かを特定することが可能になります。我々は、どこに取組みの余地があるのか、どの工場を優先すべきかを調べることにしています。また、専門家とともに工場内部で技術的評価を行うことにより、環境負荷低減の余地がある箇所を特定します。
「天然資源保護協議会」(NRDC)の調査によれば、HIGGインデックスの環境モジュールが示す省エネルギーのベストプラクティスのうち5つを実行するだけで、工場は燃料使用量を11~19%、電力使用量を最大4%削減できる可能性があるとしています。こうした方法は環境にとって良いだけでなく、資源の効率的活用と同時に、収益向上にもつながります。
Higg Facility Social and Labor Module
サプライチェーンのグローバルの労働環境を把握し、社会的な影響を知ることができるものがHigg Facility Social and Labor Moduleです。
Higg Brand Tools
環境に対して考慮されたブランドが消費者からも求められている今、環境に対してのインパクトや社会的なインパクトを知り、改善ができ、サステイナビリティの情報をステークホルダーに共有できるのがHigg Brand Toolsになります。管理できる項目としては
環境の観点ではGHGエミッション、エネルギー利用、水利用、水質汚染、森林破壊、有害化学物質利用、動物生態系保護
社会的な観点では子どもの労働、差別、強制労働、セクハラ、最低賃金以下での労働、賄賂や汚職、労働時間、安全な労働環境
があります。
ファーストリテイリングの排出量の情報からもわかるように、サプライチェーン全体での管理が必須になってきます。その中でこのSACに加盟している日本企業があまりいない点から、これからここに加盟していく企業が増えていくのではないでしょうか。またアパレルだけではなく、他の業界にも業界団体によるサプライチェーン全体の評価が必要という流れが増えていくのではと思われます。サプライヤー側の会社もいつこういった環境への対応が必須になってもいいように準備していく必要がありそうです。
参考文献
ファーストリテイリングのサステイナビリティーレポート
Sustainable Apparel Coalition
The Nike Materials Sustainability Index — Brown and Wilmanns Environmental