kering社の環境損益計算書EP&Lとはどんなものか

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経営をしていく上で損益計算書を見ていない人がいないように、数字で管理をしていくことが経営では当たり前です。一方で環境問題はというと、CO2の排出量だけであれば数字で管理することができますが、他の例えば水の利用量や、土地の利用を減らしていくといったことを考えた時に、それぞれの数値で管理していくことももちろんできるのですが、全社員の意識をあわせるというのは難しい面もあると思います。

グッチ、ボッテガ・ヴェネタ、サンローラン、ブシュロン、プーマなどをもつコングロマリットブランドを持つkerning社がそういった問題を解決するためにE P&L(Environmental Profit and Loss Account) 、日本語でいうと環境損益計算書というものを使って管理しています。とてもよくできた仕組みなので紹介します。

サマリ

kering社が環境への影響を管理するために利用しているE P&Lは大気汚染、温室効果ガス、土地利用、廃棄物、水の利用量、水質汚染といった環境へのインパクトを、材料の生産から加工、製造、物流、販売までパートナーも含めた全てのバリューチェンの範囲で金額で表し管理しています。それによって、どの国、どの素材、どの製造工程が環境に大きなインパクトを与えているのかを把握し、それをわかり易い形で社内で共有・認識し、その数値を減らしていくということが実現できています。

E P&Lとはどんなものなのか

E P&Lはお金の単位で環境に対する影響を把握することができるもので、環境によいサステイナブルな経営意思決定をするための羅針盤になります。

領域としては、大気汚染、温室効果ガス、土地利用、廃棄物、水の利用量、水質汚染です。そして材料の生産から加工、製造、物流、販売の全てのバリューチェーンに対して数値を管理しています。

kering社だけでの環境の影響は全体の7%程度しかなかったということで、多岐に及ぶパートナーを全て巻き込んで、全てのバリューチェーンで管理しているというのが特徴になります。

そしてこういった管理方法が広がっていくように、方法論を公開しています。

Kering open-sources Environmental Profit and Loss Account methodology to catalyse corporate natural capital accounting | Kering

E P&Lで実際どんなことがわかるのか

kering社のE P&L2013年の結果

上図は方法論が述べてある資料に記載されているkering社の2013年のE P&Lなのですが、この図のような形で、それぞれの領域での結果が見えるようになっています。

TIER4 材料の生産(RAW MATERIAL PRODUCTION)やTIER3 の材料の加工(RAW MATERIAL PROCESSING)が多くの影響を与えているのがわかります。

コスト削減をする際も同じなのですが、全体でどれくらいのコストを使っていて、どの領域が多いのかなどがわかっていないと、ただ節約するだけで結果が出なく、それによってプロジェクトが頓挫してしまうといったことが起こりまえますが、こういった形でわかれば管理がしやすいのがわかります。

kering社の素材別インパクト

素材別インパクトと利用量

さらに細かく見ていくと、素材別のインパクトもわかります。上図は素材別の環境インパクトとそれぞれの利用量なのですが、革が最も大きいことがわかります。国別に数字を取っているので

国ごとの革による環境インパクト

国別革1㎡あたりの環境インパクト

上図のように、革の中でもブラジルが最も影響が大きいなどがわかるようになっています。ここまでわかると色々な手が打ちやすいことがわかると思います。

E P&Lをなぜ始めたのか

元々このE P&Lはケリング社のブランドであるプーマ社が始めた仕組みです。

PUMA: Environmental Profit and Loss Account | Trucost

上記リンクの資料の中に書かれているのですが、プーマのCEOだったJochen Zeitz氏が自然から得られる水や空気、生態系や土地利用などを無料のものとして使っていること自体がおかしいから、適切にコストとして管理して損益計算書として作成すべきだという発想から生まれたものです。

なぜお金の形である必要があるのかという点については、

  • 従業員や関係者が理解しやすい(難解な環境の用語ではなく、お金であることで誰もが理解できる)
  • どんな問題が環境に影響が大きいのかを理解できる。
  • 管理しやすい

といった点があげられます。

E P&Lはどんな流れで実装しているのか

このE P&Lはkering社とpwc社で作成したものです。計算の仕方などの詳細はpwcのページに載っています。

Natural Capital – risks and opportunities

実装していくにあたってのプロセスは以下のページに詳しく載っています。

EP&L METHODOLOGY

概要としては、

  1. 何を測るかを決める
  2. パートナーを含めたサプライチェーンのフローを作る
  3. 必要なデータを決める
  4. 一次データを集める
  5. 二次データを集める
  6. 金額に換算する
  7. EP&Lの形にまとめ、分析する

といった流れになります。

と簡単に書いていますが、それぞれの難易度はかなり高いと思います。まずバリューチェーン全体を整理するのは膨大な手間・コストがかかります。また、パートナーに理解させ、参加してもらうことも難易度が高い。

そして最も重要で難しいのではと感じるのが一次データを集めるところです。自社のプロセスから現状がこれくらいの影響であるというのを決めるには、専門家に入ってもらう必要もあるだろうし、これを作るというだけでかなりの金額のコンサルティングの仕事になることが想定できます。

広まっていくための課題

私がコンサルタント時代に企業の管理会計に精通していたのもあり、こういった仕組みは大好きで内容も素晴らしいのですが、上にも書いたとおり難しい点があるのも事実だとは思います。

まず、他の会社が全く同じ仕組みでやれるかというとそうでも無いかと思います。というのは金額化するために、どうしても二酸化炭素排出量xxkgあたりyy円、水の利用aaリットルあたりzz円といった数値を決めないといけないのですが、pwc社が研究して決めたとはいえ、恣意的に決めている部分もあり、本来の決算書と同様に他の会社と横一列で比較できるような数字にするのは難しいという点があります。

次にあるのが実装の難易度で、この仕組を作るための期間はかなりかかることが想定されますし、数値を取り、集計するためにシステムを入れないと負荷が高いのではと思います。

具体的にどんなシステムでやっているのかがとても気になります。

とはいえ、管理するためにはこういった仕組みが必要なのは確かなので、まずは対象領域を絞ってやってみるのがいいかもしれないですね。

参考文献

Kering open-sources Environmental Profit and Loss Account methodology to catalyse corporate natural capital accounting | Kering

PUMA: Environmental Profit and Loss Account | Trucost

Natural Capital – risks and opportunities

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