イタリアの国立統計研究所の報告によれば、イタリアにおける7~8歳の肥満の割合は18%に及びます。これは、同年代のデンマークやノルェーの肥満率5%と比較すると突出した数字であり、イタリアでは社会問題ともなりつつあります。
イタ飯の本場イタリアとしては、食事が美味しいだけではなく健康的に食べることがなによりも重要として、昨今は政府による食の啓蒙も拍車がかかってきました。
そのような風潮の中で、南イタリアのオーガニックの会社がこれまでとは一線を画するベビーフードの販売を開始し、イタリアでは大きな話題になっています。
それはどんなベビーフードなのでしょうか。
「ブロックチェーン」という概念
食の健全に目が向けられるようになった1990年代、南イタリアはレッチェにある「プラリーナ(Pralina)」が「ブロックチェーン」という概念でオーガニックの食材の販売を開始しました。
「ブロックチェーン」とは、最近は仮装通貨の世界で使われる金融の専門用語です。いっぽう、オーガニックの企業が打ち出した「ブロックチェーン」とは、食材が生まれる大地から消費者の口に運ばれるまでの連鎖(チェーン)をブロックして無駄な工程を省こうという概念です。
栽培→生産→消費の流れを短くすることで、消費者に対してその商品の透明性やトレーサビリティを保証することが安易になるためです。
この試みと商品の品質は非常に高く評価され、イタリア国内だけではなく海外23ヵ国にも輸出されるほどになりました。
若者たちによって再生された伝統的な食材が原料
以前の記事に、イタリアの若い世代が農業に従事する傾向が顕著であることをご報告しました。
プラリーナが国際的に意も高く評価された理由は、こうした若い世代が復活させた古代からの食材を原料としていることがあげられます。それはつまり、土地の風土や土壌とマッチした栄養価や質の高い食材が原料となっていることを示しているのです。
もちろん、栽培はすべてバイオダイナミック農法や有機栽培が用いられています。今回、オーガニックのベビーフードの生産を始めたプラリーナもこうした若者の農企業5社と契約し、時代の要求に応えようとしてきました。
つまり、健康志向は高まるのに人々がキッチンで料理に専念する時間は張りつつある、という昨今の在り方に呼応しようというわけです。矛盾しているようですが、人間の欲求というのは果てしがないものだということを感じます。しかし、そうした欲求に応えようという力強さを持つ企業がイタリアには幸いにも数多く存在しています。
地中海式食事法をベースにしたオーガニックなベビーフード
こうした流れの中から生まれたのがベビーフードでした。働くお母さんが多くなり、さらにより健全なベビーフードをという希求が高くなった流れに即した生産開始、といったとことでしょうか。
このベビーフードが大いに注目されたのは、オーガニックやトレーサビリティだけではありません。
ユネスコの無形文化遺産にも認定された「地中海式食事法」をベースにしていることが、大人気を博した理由です。
つまり、タンパク質は豆類から由来したものが主流であり、レンズマメやひよこ豆といった地中海では古代から食されてきた食材がふんだんに使用されているのです。塩分は含まれず、その代わりにこれまた地中海の食事の特徴であるハーブで味つけされています。オレガノ、タイム、バジル、パセリなどなど、大人の食事顔負けのグルメぶりです。塩分の過剰摂取を避けるために、成人もこうしたスパイスを活用することが有効とされていますから、まさに食育の最たるものといえるかもしれません。
WHOも推奨する豆類の摂取
イタリアの離乳食は、タンパク質としてまず肉を食べさせることが推奨されてきました。日本の離乳食は、白身の魚をかなり早い時期に食べさせますが、イタリアは魚の登場はかなり後になってからです。
ところが昨今の研究で、幼児期に豆類を摂取しなかった子供は成人後もそれを食べない傾向にがることが明らかになったのだそうです。お料理が好きなイタリアンマンマやおばあちゃんたちも、貧しき時代のシンボルともいえる豆類はあまり料理しないご時世になってしまいました。
ところが、肥満の解消や健康のためには世界保健機関(WHO)も豆類の摂取を推奨するようになったのです。
イタリアの公立学校の給食は、WHOの基準に従ってメニューを作るよう指導されています。イタリア国立がん研究所の元所長フランコ・ベッリーニ教授も参加する給食のオブザーバー団体は、現在の給食に赤身の肉が多すぎることや加工肉が過剰であることに警鐘を鳴らしています。
このような事情からも、離乳食の時代から豆類を摂取することは将来の健康のためにも非常に有効であり、これが幼い子を持つ親たちに絶大な人気を誇る理由です。
そしてそれらの豆は、古代からギリシア人が入植するほどの豊かな南イタリアの土壌と南太陽の恩恵を受けた健康的な有機食材なのですから、一石二鳥といったとことです。バイオダイナミック農法も採用していることを考えると、環境にも優しいベビーフードといえるでしょう。
コロナの時代に見直される「健康こそ財産」
コロナ禍に見舞われた2020年、人々の食への思いはかなり変化したといえるのではないでしょうか。
イタリアでは、食の廃棄への認識が高まりました。また、人々はより健全で質の高い食材を求めるようになりました。
そうした思いが、ベビーフードという食の原点にも反映されて、オーガニックでサステナブルな健全食が人気を博しているのでしょう。日本の和食も、地中海式食事法同様にユネスコの世界遺産に認められた食文化。改めて、その良さを日本人として見直してみたいものです。
参照元
http://www.quotidianosanita.it/allegati/allegato5333378.pdf