Covid-19の感染拡大によって、世界中のあちこちの町がロックダウンされました。イタリアは、世界の先頭を切って国全体が封鎖された経験を持ちます。その間、買い物をするにも長蛇の列に並ぶ必要があったため、いかに食を無駄にしないで食いつなぎ、買い物の回数を減らせるのかとまじめに考えるようになったのです。それはすなわち、平常時にどれだけの食を無駄にしてきたかを反省する材料にもなりました。こうしたことから、食を無駄にしないためのアプリが脚光を浴びています。その一部をご紹介したいと思います。
技術革新と消費者の意識の高まり
国連食糧農業機関(FAO)の調査によれば、毎年世界中で廃棄される食料の量は13億トン。これは、生産される食料の全体量の30%を占めています。また、人類は今後30年の間に都市部へと流入し続ける傾向にあるため、食料の需要と供給のバランスが崩れることも危惧されています。
そのような危機的な状況は、イタリアにおいてもしじゅう新聞の紙面を騒がせてきました。一部の若者がこうした状況を憂いて、これまでもいくつかのアプリや政策が生まれてきたのです。
しかし、2020年に入ってこうした問題にあまり関心を持たなかった人々も、否応なしに食料の廃棄問題と向き合うことになりました。それが、Covid-19の感染拡大です。ロックダウンによって思うように日常的な買い物もままならなくなったために、どのようにして食料を無駄にしないで上手に料理し消費するか、人々はまじめに考えるようになりました。 こうした社会の風潮に加えて、昨今はオンラインでのショッピングやアプリの開発も進んでいます。2つの現象が重なって、ここ数か月で食料廃棄を妨げるためのさまざまなアプリへの注目度が高まっているのです。
2019年に開発、世界的成功を収めた「Too Good To Go」
ヨーロッパでもっともよく知られる「反・食料廃棄」アプリといえば、「Too Good To Go」でしょうか。ヨーロッパだけで、2000万人を超える利用者があるといわれています。
システムは非常によく機能していて、お店やレストランで賞味期限ぎりぎりの食品が破格の値段で購入できるというシステムです。お店側も、賞味期限切れの商品を破棄せずに済み、ヨーロッパではまだまだ高価な寿司なども若い世代が気軽に購入できることから人気を博しました。また、「マジックボックス」と呼ばれる福袋のような概念を持つ食材セットも人気で、アプリの顔となっています。
食料廃棄阻止という理想や概念のほかに、利用する人にとってもメリットが多いのが成功の鍵であったといえるかもしれません。
ちなみに、Covid-19感染拡大以前の2020年2月の報告では、このアプリによって2800万食が廃棄の運命を逃れたとされています。
https://www.instagram.com/toogoodtogo.it/
消費者と生産者だけではなくボランティア団体も参加するアプリ「Ecofood Prime」
イタリアで開発された食料廃棄阻止のためのアプリのひとつに、「Ecofood Prime」があります。自国の食に関しては強い自負を持つイタリアは、早くから若者たちが食料廃棄を減らすための運動が繰り広げられてきました。
Ecofood Primeは、イタリア国内でも豊かな食で知られるシチリア出身の若者たちによって開発されました。消費者、生産者、販売業者の共通の目的はただ一つ、「食を無駄にしないこと」。
メカニズムは非常にシンプルです。アプリを通じて消費者がEcofood Primeに登録をすると、最寄りのお店やレストランから賞味期限が近い食品、食べるには問題がないものの外観が商品にならず出荷できなかった食材などなどの情報が流れてきます。その商品を欲する人は、お店に連絡して確保するか配達を頼むことも可能。もちろん、お値段は消費者にとってかなりのメリットがあるのは自明の理です。
またキリスト教の国らしく、Ecofood Primeには貧しい人々に食を提供するボランティア団体も参加できる仕組みになっています。つまり、消費者や販売者がこうした団体に余剰の食料を寄付したい場合に役に立つ情報が、アプリには含まれているのです。
このアプリ、実際にロックダウン中のイタリアでは店舗の前にできる長蛇の列を回避するためにはとても役に立ったといわれています。
Eco Food Primeとよく似たアプリに、「Last Minute sotto Casa」があります。直訳すると「家の真下のラスト・ミニッツ」。Eco Food Primeよりもよりシンプルな機能で、自宅の周辺で賞味期限が近付いている食材の購入可能となるアプリです。
また、レストランや食材店の商品だけではなく、結婚式で供されて残ってしまう食材の写真をアプリにアップし、それを必要とする人に届ける「Avanzi Popolo」もよく知られるように案ってきました。
https://www.instagram.com/ecofoodprime/
購入した食品を廃棄しないために消費者を啓蒙するアプリ「UBO」
これまでご紹介したアプリは、生産者や販売者が食品を廃棄しないために消費者へ提供するサービスという形をとっています。
いっぽう、「UBO」は食品購入時から廃棄阻止に向けて消費者を啓蒙することを目的としたアプリです。
たとえば、「パスタ」というカテゴリーが存在します。乾麺を買った場合、生のパスタを購入した場合、ロックダウン中によくありましたが自宅でパスタを作った場合、賞味期限はどのくらいになるのでしょうか。もちろん、購入した商品には賞味期限が記されていますが、これを冷凍した場合にはどのくらい日持ちがするのでしょうか。野菜や果物ならば、旬はいつなのか、栄養価はどのくらいなのかなどなど、わかっているようで実は把握していない食に関する情報が詰まっているアプリです。とくに、保管や保存についての情報が詳細であるのは、もちろんその目的が食料廃棄阻止にあるためです。
この「UBO」は、イタリアの経済開発省が出資してトリノ大学、スローフード協会、数々の研究所や団体が参加して開発されました。
UBOもまたロックダウン中に普段は台所に立たない男性たちのあいだで大いに話題になり、普段は疑問に思っても調べもしない内容がアプリで簡単に検索できることから利用者が増えています。
https://www.instagram.com/ubo.unabuonaoccasione/
食料の大切さを実感した2020年
普段は造作もなく食べ散らかす習慣があった人たちも、買い物もままならないロックダウンを経験し、とにかく家族が1日でも多く食事に困らない算段をするようになったのが2020年です。ロックダウンが解除された今は、もちろん時間の制約もなくマスクをつけて買い物が可能になりました。それでも、長蛇の列に並び買い物をし、買ったものをいかに無駄にしないかという経験をしたことは、食べ物に対する概念を根底から覆したといってもよいかもしれません。そして、いずれのアプリも食を無駄にしないことだけではなく、食材一つ一つが持つ栄養やパワーについても力説しているのが特徴的です。Covid-19という事象は、より健康的な食や健全な環境へ人々を喚起させる役割を果たしたともいえるでしょう。
参照元
https://www.finedininglovers.it/articolo/app-contro-spreco-cibo
https://www.panorama.it/too-good-to-go-come-funziona-cibo-scontato
https://www.lavocedibolzano.it/ubo-app-lantidoto-contro-lo-spreco-di-cibo/
https://ilfattoalimentare.it/ubo-spreco-alimentare.html